君、花海棠の紅にあらず|第41話・42話・43話・44話(全49話)のあらすじ

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『君、花海棠の紅にあらず』のあらすじ・ネタバレ第41話~第44話(全49話)

こちらの記事では第41話~第44話のあらすじとネタバレをまとめています。

第41話 芝居からの解放

程鳳台は耳の不調が続く商細蕊を休ませるため、芝居から解放しようとする。そんな中、范湘児は商細蕊に引退を勧める。小周子から指導を懇願されても応じず、街なかで独り歌う商細蕊。その周りに集まった人々から復帰を求められた商細蕊は、困惑し立ち去ろうとする。一方、姜栄寿は中日戯曲同好会の会長に就任し、姜家は売国奴として批判の的となる。

縁のある相手は天に定められている。いつかは必ず巡り合う運命なのだ。もし商細蕊が一座に売られていなくても、違う状況で出会うはずだと程鳳台は信じている。細蕊は芝居しかできない。義父・菊貞が細蕊を買ったのは芝居のため。細蕊が生きるのも芝居のため。衣食住のお金も名誉や地位もすべて芝居のおかげだ。芝居なしで商細蕊の3文字にはなんの価値もないと細蕊が呟く。梨園一の役者になって商細蕊の名は全国に轟き、菊貞の面子を立ててやれた。十分恩は返せたから自分の人生を歩むべきだと鳳台が言う。鳳台は、座員たちに今日から商座長の前で ”芝居” という言葉を使わないよう言いつける。とにかく今は座長の心身の健康が最優先だ。

商座長が散歩から戻ると、座員たちが騒いでいる。財神の奥様から届いたと品々を見せる。漢方薬だけでなく、美味しそうな食事もある。好物のすね肉まである。鳳乙の手前、気を遣っているのだろう。細蕊は本当に意外だと眺め、鹿茸ろくじょうを頭に当ててみる。

湘児にお礼を言いに来た細蕊。医者にかかり薬も飲んだが無駄だったと言う細蕊に、治らなければ弟子を育てて、普通の生活を送ればいいと湘児は助言する。二旦那に店を開いてもらって商売を始めるよう勧め、やりたい商売はあるかと矢継ぎ早に質問する。細蕊が指を噛んで考える様子に、話が早すぎたと取りなし、旦那が水雲楼に入りびたりは困ると伝える。

坂田大佐は商細蕊を会長にする予定だったが、まだ若すぎる上に耳が聞こえなくなり、もう舞台に立てない。だから会長は姜栄寿にやらせることになった。すぐさま北平時報で号外が出る。中日戯曲同好会の会長に姜栄寿が就任したという記事だ。この前は商先生が敵と結託したが、今度は姜栄寿が国賊になったと噂される。四喜児が会長に会いに行く。姜栄寿は四喜児に金が必要なのかと聞く。ペニシリンが値上がりし、家財を売り払ったが使い果たしたと言う四喜児に、帳場で金を受け取るよう伝える。

北平の親日家名簿に姜栄寿の名を見た劉漢雲は、脅しに屈して中日戯曲同好会の会長になったと呆れる。同世代の寧九郎は出家して忠も義もまっとうしたが、姜栄寿は晩節を汚した。商細蕊は北平を離れないと聞き、水雲楼の座員だった臘月紅にこの件をどう見るか尋ねる。商細蕊は変わり者ではあるが親日家ではない。ただ北平を離れないのは劉委員と距離を置くためで、商細蕊が義子というのは将来面倒なことになると見解を述べる。

鳳乙をあやす細蕊は元気そうで顔色も良い。鳳台が舞台に上がってみるか尋ねると、金を出す客に申し訳ないと拒否する。舞台に立てば成功か失敗の2つに1つだ。10割の自信がなければ完璧な芝居は出来ない。失敗するのに券を売るのは道徳に反するという。細蕊は鳳台の話を遮り、鳳台を追い払う。

座員たちが幽霊が出たと話をしている。安貝勒の話によると、女の幽霊が夜な夜な劇楼の舞台に現れ、衣装を着て歌っているそうだ。浮かばれない小来が出てきたと憶測する座員すらいる。鳳台は本物の幽霊を捕まえて見せてやると意気込む。夜、商座長が舞台で歌っているとも知らず、鳳台が様子を見に行くと、細蕊に一打される。細蕊を責める鳳台。気の病を治すには原因を解消すべきで、精神面さえ克服すればまた舞台に戻れるだろうと聞いて、細蕊は閃いたと屋根に上る。舞台から落ちて聞こえなくなったのなら、もう一度落ちれば治るかもしれないと、鳳台たちの制止をきかずに屋根から飛び降りる。鳳台が受け止めて倒れる。細蕊は足を痛めてしまった。

昨夜、商先生が屋根から飛び降りたと鳳乙の乳母が知らせる。乳母にとって鳳乙は実の娘のようなもの。湘児に引き取ってほしいと懇願する。翌日、湘児が水雲楼から鳳乙を連れ去ろうとする。湘児は細蕊を気の毒に思って半年あまり待った。しかし、今の細蕊は言動が変で足もケガしており、鳳乙の面倒を見られない。細蕊は耳がだめになり今後は歌えないかもしれないが、死ぬのをやめたのは鳳乙を守るためだ。鳳台が鳳乙を湘児から引き取り、細蕊に返す。細蕊は足を引きずって部屋へ連れていく。

家へ戻った鳳台は湘児の説得を始める。湘児は鳳乙に物心がついたら悪影響を受けると考えているが、鳳台は早くから芸術に触れるのは良いことだと考えている。湘児は芝居が芸術だとは認めないようだが、京劇の地位はいずれ上がるだろう。特に商細蕊は偉大な芸術家になる。鳳台が水雲楼に投資したのは母を追想したいという夢からだが、細蕊といるのが楽しいからでもある。細蕊は奇抜な考え方をして、単純で警戒心がない。有名な大先生でありながら自由に生きている貴重な存在だ。湘児も細蕊はいい人で誠実だと認める。しかし、何でも好き勝手にやらせるのは許せない。一座の生活が掛かっているのだから落ち着くべきだと、芝居を続けられない時の心配をする。

第42話 君のために

程鳳台の荒療治により、回復した商細蕊は一座の者たちに公演再開を宣言する。しかし、商細蕊は騙すようなやり方をした程鳳台を受け入れられず、避けていた。再開初日、商細蕊は舞台に出られず立ちすくんでしまう。その姿を見た程鳳台からの熱い言葉に励まされ、喝さいを浴びて舞台に立つ商細蕊。完全復活の兆しが見えたが…。

商細蕊はまた今朝から耳がよく聞こえないようだ。鳳台は気分転換をさせるため、細蕊を狩りに連れ出したが、突然銃声が鳴り響き、匪賊が現れる。狙いは自分だと鳳台は商座長に逃げるよう急き立てる。鳳台を取り囲む匪賊たち。二親分の敵を討たせてもらうと鳳台に発砲する。撃たれた鳳台が落馬する。逆上した細蕊は、匪賊を目掛けて走り出し、襲いかかって石で殴ろうとする。堪らず漣が正体を明かす。刺激治療と騙された細蕊は鳳台の首を絞めようとする。許しを請う鳳台を追いかけ、川に突き落とす。

水瓶の中で手を掻きむしる四喜児。首に水をかけて掻きむしる。水瓶に移った自分の姿を見つめ、水に潜る。四喜児の奇行が始まる。

芝居が始まり、いよいよ商座長の出番になる。観客が声援を送るも商座長は逃げ出してしまう。鳳台が説得する。細蕊の問題は自分の問題でもある。決意に背向き、逃げることは許さない。味わってきた侮辱や苦渋と自分のためにも堂々と演じるよう訴える。舞台袖へ連れていき「楊貴妃様のおな~り~」と掛け声を言う。すると商座長は「我こそは楊貴妃なり~」と歌い始める。演奏が始まり、歓声があがる。その頃、様子をうかがう臘月紅が客席へ入り、ゆっくりと舞台に近づく。座長との思い出を封印し、銃に手をする。撃たれた商座長は傷が痛むと倒れる。大量に出血している。

四喜児が姜栄寿の屋敷前で歌っている。使用人が何度追い払っても居座り続ける。栄寿は早く追い払うよう命じる。そこへ商細蕊が舞台で撃たれたと知らせが入る。街では親日の者が何人も殺されている。戯曲同好会の会長を務めている栄寿は、いつか災いが起きると懸念していた。栄寿は無理に任命されただけで国賊ではないが、もはや天に祈ることしか出来ない。

入院している商座長を看病する鳳台。細蕊は犯人の顔を見ていた。臘月紅の次の標的は姜栄寿か?臘月紅はその後、姜家の前にいた。日本兵が通りすぎるのを待っていると、息子の登宝が酔って帰ってきた。

ベッドで苦しむ細蕊。歯を食いしばって痛みに耐えている。医者を呼びに行こうとする鳳台を止める。鎮痛剤は脳に悪く、台詞を忘れると誤解している。鳳台は、細蕊には鎮痛剤のことを秘密にするようお願いし、点滴の薬剤は消炎薬だと口裏を合わせてもらう。安心した細蕊は、二旦那は本当に優しいと感心する。幼い頃、負傷しても1人で寝ていた細蕊にとって、誰かが看病してくれるなんて夢のようだという。そこへ葛さんが湘児からの差し入れを持って来る。

姜家の前で四喜児が歌う。朝稽古のつもりか。倒れている人を見つけ、なぜここで寝ていると話しかけ、歌を聴かせる。歌を褒めてほしい四喜児は、寝ている人をひっくり返す。その人は登宝だった。額には銃痕が。

小周子が見舞いに来て事件の近況を知らせる。警察の話によると、師匠を撃った弾は国民政府が特務で使うものだという。危害を加えたのは新聞の記事が原因だろう。親日派は狙われている。姜会長の息子・登宝が死んだとも聞いた。そのとき会長は日本軍の所にいて難を逃れた。次はだれの番だと皆が不安に怯えている。刺客の仕業だと聞いた細蕊は、戦場で力を使わず自国民を襲う奴らを非難する。

姜栄寿が登宝の遺体の前で声をあげて泣いている。それを見ている坂田大佐はお悔やみの言葉を伝える。力になるという坂田大佐に姜会長が跪く。不憫に思ってくれるなら会長を辞めさせてほしいと願い出る。しかし、引き続き執務するよう告げられる。姜会長は、死を待つことしかできないのかと叫ぶ。「我が業の深きことよ」と泣き崩れる。

次は薛千山に狙いをつけた臘月紅。戸を蹴り開け、銃を乱射する。師姉の六月紅が止めに入るので撃つのを止める。薛千山は六月紅の夫で子供の父親でもある。六月紅は、夫を殺そうとする臘月紅を責め立てる。六月紅は臘月紅が商座長も撃ったことは分かっている。銃を奪おうとする六月紅に薛社長が加勢し、銃を持つ臘月紅の手を何度も強打する。銃を落とした臘月紅は社長に殴りかかる。六月紅は銃を拾って臘月紅の背後から撃つ。撃たれた臘月紅が倒れる。六月紅は殺す気はなかった。他に方法がなかったと泣き崩れる。臘月紅の腕には六月紅から贈られた腕輪がはめられていた。

商座長が臘月紅の遺体と対面する。才ある青年があの世へ行ったと悲しむ。臘月紅は、国賊を始末したら出世させると劉漢雲が言ったことを信じたようだ。己の手で国賊を殺す勇気もない劉漢雲は若者を使って愛国の士を気取る。いつか天罰が下ると薛社長が言う。臘月紅は気位が高く役者業を毛嫌いしていたが、このように命を落とし、商座長は自責の念に駆られる。

退院した商座長は、鳳乙に愛情を注ぐ鳳台の様子を見て、鳳乙を家へ連れて帰るよう申し出る。鳳乙が水雲楼にいたら父も母もいないが、程家に行けば父と母親代わりがいる。鳳台は後悔しないかと何度も確認し、鳳乙を連れていくことにする。細蕊は名残惜しそうに鳳乙の顔を見て、車をいつまでも見送る。

第43話 逆転の世界

高楼で発声練習をする水雲楼一座の者たち。商細蕊は弟子たちに役者という生業の真髄を語る。一方、四喜児は病のため街なかで奇行を繰り返し、商細蕊もその姿を目にする。そんな四喜児は、敬愛してやまない役者の名を口にするのだった。衣装を身にまとわず歌だけの公演を終えた商細蕊は、新たな野望を程鳳台に打ち明ける。

高楼で発生練習をする水雲楼の座員たち。怖気づく小周子に大声でいつもと同じようにやれと商座長が檄を飛ばす。そして役者の真髄を語り始める。京劇が生まれた時から男役が重視され、女役は脇役だった。しかし、寧九郎という名役者の登場が女役のあり方を変えた。寧先生は宮廷から民間まで広く人気を得て、有名な男役たちから共演を求められた。それに伴い女役も台頭し始め、水雲楼では舞台の中心として主役を張り、一座を支えるまでになった。人の心を掴めば梨園の王になれるという。観客は歌声に酔いしれる。本物の皇帝を除いてここまで人の心を動かせる者はいない。至高の生業だ。人目を恐れず大声で歌い、最高の声を聞かせるのだ、という商座長の言葉に小周子は涙を流す。

四喜児が奇行に走っていると商座長に知らせが入る。今ではペニシリンが禁薬となり闇市で高騰している。四喜児は買うことが出来ず、梅毒が脳に達したらしい。街中で服を脱ぎ、走りまわっていたという。妻を全員売り払い、弟子も逃げ出して四喜児を誰も止める者はいない。犬のような扱いを受ける四喜児。投げられた饅頭を食い漁っている。細蕊は四喜児に自分の服を掛け、病人をいじめる座員たちを叱る。細蕊の顔を見て錯乱した四喜児は、あんたをどれだけ敬愛しているか、みんなは知らないと口にする。そして「九朗 ♪私の恩人よ♪」と歌う。四喜児は細蕊の顔を触ろうとするが、自分の手を見て♪~よしておこう~♪と歌い、ふらふらと立ち去る。寧九郎の名を呼んだ四喜児。2人にどんな過去があったのか鳳台が興味を示す。細蕊は義父から聞いた話を聞かせる。数十年前、四喜児は寧先生を妬んで毒薬を飲ませ、喉を壊そうとした。それが縁で寧先生は斉王と出会ったという。しかし、あの様子では事実は違うようだ。

芝居の幕が上がる。舞台上で細蕊は「大登殿だいとうでん」は節回しに実力が出ると説明し、相手役は名役者でなくてはならないと「周香蕓」を呼ぶ。小周子は舞台へ上がり、観客にお辞儀をする。小周子の愛好家からの呼び名は”小周先生”だ。才能があり努力を惜しまない。細蕊以上の役者になるはずだ。そして、もう一人役者を紹介する。呼ばれた十九は、舞台上でペコペコとお辞儀をする。十九はよく助演をしているので名前は観客にも知られている。十九は姉弟子で確かな腕を持ち、いくつも技を教えてくれたと紹介される。暖かい声援が会場を包む。

屋台で昼食をとっていると、細蕊が映画を撮りたいと言い出す。得意な芝居をいくつかフィルムに収めたいという。細蕊はレコードすら嫌っていたが、2度も危険な目にあって心配になったようだ。日本軍は中国に思い入れがない。中国の言葉で中国の文化を歌う京劇など退屈なはずで、いつかは消そうとするはずだ。鳳台は撮影を快諾する。

君、花海棠の紅にあらず 第43話
出典:https://winter-begonia.com

悲嘆に暮れる姜栄寿。会長の委任状を燃やす。息子の登宝を失い、意気消沈している。そこへ細蕊が弔問にきた。栄寿は涙を拭き、細蕊を中へ入れる。拝まれて息子も驚いているだろうと嫌味を言う栄寿に、細蕊はあるお願いをする。数か月前に上海で昆曲を歌った時のことを話す細蕊。券が売れないと止められたが、耳をかさずに歌い、結局不評だった。細蕊はその時、己のうぬぼれと時の恐ろしさを自覚した。いかに優れた芝居でも時が経てば誰も好まなくなる。栄寿にお願いしたいのは、京劇に少しでも痕跡を残すために仙人歩行を映像に残すことだ。細蕊は仙人歩行に映像で残す価値があると思っている。栄寿には恨みもあるが、素晴らしい技を持っているのは確かで敬服している。それを聞いた栄寿は泣き笑いする。細蕊の想いに感服し、今まで争ってきたことを悔やむ。「師伯」と細蕊が呼びかける。栄寿はついにそう呼んでくれた細蕊に頭を下げよと命じ、細蕊に仙人歩行を授けることを約束する。

曹貴修から軍営へ来るよう手紙が届いた。鳳台は葛さんに一緒に軍営に来るよう指示し、聞かれたら荷運びだと言うよう口裏を合わせる。それを聞いていた察察児。どこへ行く気かと鳳台に尋ねる。時期がきたら必ず説明すると鳳台は言うが、いつもごまかされてきた。どんな事情でも敵に協力してはだめだと万年筆を鳳台に向ける。珍しく妹を叱りつけた鳳台に、察察児が言ったことは本当かと尋ねる范湘児。半分は本当で日本軍の荷を運ぶが、察察児の想像とは違うという。それ以上の事を言えない鳳台は良心に背むくことはないと湘児に誓う。

鳳台が出発する日がやって来た。察察児はまだ腹を立てており、見送りにも来ない。察察児は西洋人の影響で変わってしまった。いまさら元に戻そうとしても手遅れだと湘児が言う。鳳台にとって今回の出張で一番心配なのが察察児だ。もう誰も束縛することができない。屋敷の外で察察児が鳳台を待っていた。察察児は隠し持っていた銃を自分の頭にかざし、考えなおしてと懇願する。中国は必ず勝ち、じきに占領は終わるから行かないでと訴える。韓総監がこっそり背後から銃を奪おうとし、もみ合いになる。鳳台は察察児に好きにさせることに。すると「行かせないわ」と鳳台に銃を向ける。

第44話 翻弄

商細蕊は謝罪に来た雪之誠を受け入れず、縁を切ると告げる。一方、日本軍の荷の輸送業務に赴く程鳳台は、道中、無惨な村の様子を目の当たりにするのだった。そんな中、商細蕊は義兄から食事に招待される。商細蕊の予想どおり、義兄は頼み事を打ち明ける。程鳳台は所有する留仙洞の爆破計画を曹貴修から告げられ、その作戦への同行を求められる。

察察児は程鳳台を引き留められなかった。ついに察察児は銃を発砲する。范湘児が察察児を叱りつける。それでも鳳台は戻らない。

水雲楼を訪ねた雪之誠。雪之誠は九条家の人間で、今回の戦争に影響力のある家だ。戦争が始まれば一族の男たちは死ぬまで戦う。そんな境遇にいる雪之誠を商座長は気の毒に思う。雪之誠は熱河ねっか省の在留日本人事務所に隠れていたが、兄に北平に連れ戻され、今は坂田大佐のところにいる。兄は雪之誠を脱走兵と叱責し、また逃げたら打ち殺すと言ったという。商座長は雪之誠が芝居を隠れて見に来ていたと座員から聞いていた。しかし、雪之誠は楽屋を訪ねることはせず、商座長もわざわざ挨拶には行かなかった。商座長は「縁は今日で終わりに」と言って、雪之誠に貰った蝶を返す。水雲楼はこれまで平和に芝居をしてきたのに、雪之誠が現れてから災難ばかりだ。座員は困り果てている。それに懇意にしてると思われたら座長は命を狙われかねないのだ。

細蕊を呼び出した義兄が豪勢な食事でもてなす。義兄は北平で武芸を教えてるわけでもない。会えるのは金の話をする時だけだ。細蕊もあれこれ詮索しない。義兄は頼みたいことがあると重い口を開く。昨夜逝去した四喜児の葬儀のことでもめているという。嫌われ者の四喜児を梨園が弔うことになったが、喪主がなかなか決まらない。息子を亡くした姜栄寿は不参加で、他の者は金がかかるのを嫌がる。そこで、細蕊と水雲楼に頼みたいという。四喜児に手を焼かされていたことは義兄も承知しているが、引き受けてほしいとお願いする。思案する細蕊。すると、奥の部屋から女性が出てくる。部屋には日本軍に目を付けられている友人がいるという。義兄は葬儀に紛れこませて北平から出すつもりだ。明日、禁令が解かれて交通網が正常に戻る。水雲楼の名のもと外地へ棺を運び去す際、その友人が四喜児の親戚役をして外へ出す段取りだ。細蕊は承諾し、2日後に出られるよう準備をする。

曹貴修が箱を開け、中の科学兵器を鳳台に見せる。これを九条は山東から東北へ100回以上かけ、諸外国から批判されないよう秘密裏に運ぶそうだ。だから留仙洞は必ず爆破させるよう鳳台にくぎを刺す。鳳台は家族が守れたらそれで十分だ。しかし、敵の利になることは絶対にしない。鳳台は作戦の話は今度聞くことにして、九条が生きて戻れば自分が疑われ、窮地に立たされると念を押す。銃を机に置く貴修 。もし失敗したら殺してもいいと言う。鳳台は、鉄筋を取り付けた場所を地図上で示し、爆弾を追加で用意するよう助言する。鳳台は自分で逃げ道を残していたのだ。作戦の万全を期すため九条に同行するよう頼む。貴修には考えがあるらしい。

紙銭を撒く水雲楼一行。兵士に棺を開けろと命じられる。細蕊は出直そうと義兄に相談すると、義兄の友人が棺の中身を早く届けたいからと続行することに。義兄の友人は棺の中にペニシリンとモルヒネ、キニーネがあることを黙っていた。細蕊は、梨園全体を巻き添えにし、梨園の者の命を軽んじるのかと腹を立てる。すると、兵士が無理やり開けようとする。細蕊はそれを止め、「九条和馬を出せ」と声を上げる。

雪之誠と絶交すると言った細蕊だったが、頼りにしてしまいバツが悪そうだ。雪之誠は部下に合図し、書類を持って来させる。九条家の名で許可証に署名する雪之誠。これがあれば問題なく棺桶を運べる。負い目がある雪之誠は、今後も全力を尽くして助けると公言する。お辞儀をして立ち去る細蕊。皆に親日だと思われてしまった。一方、門を出ることが出来た義兄の友人は心から感謝する。この薬で多くの人命が救われる。四喜児はペニシリンがなくて死んだ。今はその横で眠っている。すべては天のお導きだと細蕊が言う。

義兄が幼少の頃の話を聞かせる。義兄には役者の才能がなく菊貞は弟に期待した。だが、弟が死んで商家は終わったと思った頃、細蕊が現れた。細蕊は5歳くらいで一座へ来た。眉目秀麗で知性を感じさせた。唐詩も暗記していて名家の子だと確信したという。菊貞は天性の役者だと大喜びし、すぐ養子にすると決めた。義兄が名優の器だったらこんなことにはならなかった。今日の一件を詫びる義兄。本当の目的を隠し、名声を失わせてしまった。義兄は父と約束したことを破って、細蕊に全て話すことにする。細蕊は雲南省の昆明出身で、姓を曽という。母親の実家がある平陽に帰郷した際に迷子になった。曽家の者は必死で捜していたが、菊貞が5年も外地で隠し続けた。細蕊は知っていた。曽家に帰らないのは自分が必要とされていないからだ。義兄は細蕊に本来の人生を歩んでほしいと願っている。しかし、細蕊にしてみれば、今更商家の名を捨てろといわれても芝居しかできない。辛い目に遭い、挫折もした。芸に費やした20年余りは返ってこない。細蕊は「私の姓はこれからも商だ」と言って立ち去る。

身を賭して難を救ってくれた商座長にお礼を言う女性。名声を失わせてしまったことを詫び、世を平和にできた時には必ず潔白を証明すると約束する。この女性が延安えんあんの人間だと分かった細蕊。正体を察した細蕊に、あの薬を必要とする理由を聞かせる。国作りの話に感動した細蕊は、義兄の友は信じられると確信した。七七事変の時、細蕊は政府に飛行機を寄付しようとしたが、政府が北平から退去した。だから代わりに延安の人に贈ることにする。

鳳台が遠方から無事戻った。それなのに誰の迎えもない。部屋で湘児が泣いてる。美心が改まった様子で鳳台に知らせる。”程鳳台の妹が失踪” という号外が出た。見つけた者には報奨が与えられる。世間には内緒で探そうと思っていたが、新聞に載せたせいで妙なデマが流れている。鳳台は察察児が見つかるなら手段を択ばない。

杜洛城が妓女の衣に”鳳仙伝”と書いている。数年経って洛城がこの世を震撼させた時、この衣は高い価値をもつことになるだろう。”鳳仙伝” は蔡鍔さいがくと小鳳仙の物語だ。細蕊が北平に来た頃にこの台本を書いたが、力量が足りずお蔵入りになっていた。青二才だった洛城は、出会いと別れ、興隆と滅亡の話がありきたりな恋物語で終わることを恐れたという。そして細蕊は当時も演技力はあったが、人物に対する理解がいささか浅かく、それでは話の精髄を表現できないと伝える。

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